院長から一言

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開業から40年を経て

昭和53年 長尾鍼灸院開業
昭和53年 長尾鍼灸院開業
開業して臨床年数を40年が経ち、延べ30万以上の臨床経験を積んできました。長年多くの患者さんを診察して感じたものは、やはり「鍼灸」の素晴らしい効能でした。しかし、それと同時に患者さんを取り巻く現代医療の状況についても考えさせられるようになりました。

当院に来院される患者さんの中には、現代医療の「疾患に対して適切ではない治療」により身体の全体の機能が低下してしまっている方が多くいます。西洋医学は強い即効性と引き換えに強い副作用を伴います。もちろん、それに適した疾患なら仕方ありませんが、本来それほど強い副作用を伴わない治療で十分に対処していける疾患にも、強い薬などを処方しているケースが多くあるのです。

それは近年多くの人が安易に与えられた薬を飲む傾向からも伺えます。子供が熱を出したらすぐに解熱剤を飲ませる、肩の凝りには筋肉弛緩剤、血圧が高ければすぐに降圧剤、神経痛には鎮痛剤と一つの疾患に大量の薬が処方され、更にその副作用を消す薬を処方するといった悪循環に陥っています。

上記の例よりも更に酷い状況である薬大国の米国では、驚くべきことに毎年500万人が病気ではなく薬の副作用でのみ通院し、そのうち10万人が死亡にまで至っています。これはがん、心臓病、脳卒中の次に多く、死因の第4位に入ります。しかもその強い副作用の伴う治療の多くは、他の治療法でも十分に対処できるものが多いというのが実態です。「鍼灸」なら疾患によっては、強い薬の使用やリスクの高い治療を選択しなくても副作用が無く高い治療効果を示すことが出来ると考えます。

このように、西洋医学の方が適している疾患と鍼灸医療の方が適している疾患が明らかにあるにも関わらず、患者さんが適切な治療を選択できていないという現状があります。例えば西洋医学では、腰痛、肩こり、頚椎症などは基本的に痛み止めを注射して治療します。しかし、これは痛みを止めているだけで治しているわけではありません。また手術にしても失敗も多く、仮に成功したとしても、長期的に見ると完治していないケースが少なくありません。これでは疾患に対してリスクとメリットが考慮された適切な治療とは思えません。

東洋思想と西洋思想

これは様々な心理学の実験で立証されていますが、西洋人はある主体となる一点を決めて、そこから回りの関係を考えるのに対して、東洋人は一度に全体の関係を見ることが出来ると言われています。この物事の捉え方は医学にも現れました。常に一点の病気をつき止め、そこたけを治療の対象にする西洋医学に対して、全体を治療の対象にしてバランスを見て治療をする東洋医学という風に別々の発展を遂げていきました。

西洋医学は素晴らしい医学ですが、全体を見ずに一つの疾患にだけ焦点を当てる治療が弊害を生むこともあります。がんの治療に抗がん剤を投入したら服作用をコントロールできずに肝臓や腎臓にも損傷が及んでしまうケースや、抗生物質で病気の原因の最近を殺す筈が、体にとって良い効果をもたらす細菌までも全て殺してしまっているケースなど、西洋医学ならではの方法もあります。

医療とは別の現代科学の最先端の分野においても、一部だけの因果関係を分析して解を求める方法論には限界が来ています。一部だけの閉じたものを見るのでなく、開けている複雑な事象に目を向けて、全体の関係性を重視する複雑系科学へとパラダイムシフトが起きています。この考え方は「鍼灸」も同じで、あくまでも人体の部位は独立した一つのものではなく、体全体とつながっていると捉えるのです。ですからある部位に疾患があるからといって、その部位だけを治療するのではなく体の様々な箇所からのアプローチを試みます。これは「鍼灸」が長い歴史の中で、自然との調和に重きを置いてきた結果生まれた発想なのです。

自然と共にある医療

平成24年 日吉医院にて
平成24年 日吉医院にて
これからの未来、どんなに科学が発達したとしても、人間が自然の一部であるということは変わらないと思います。21世紀に入り、大量の薬を処方して免疫を破壊するような医療は過去のものになろうとしています。自然破壊による環境問題の解決と同様に、これからの医療の課題はいかに体本来(地球本来)の機構を狂わせることなく治療効果を上げていくことができるかということになってくるでしょう。また、鍼灸医療と西洋医学のお互いの得意分野を最大限生かせるような衣料整備が次世代の医療をもっと向上させるのではないかと思っています。全体の構造をみつめ、人間を自然の一部として捉える副作用の無い医療「鍼灸」を今改めて見直す時代が来ているのではないでしょうか。



長尾鍼灸院院長
長尾 里志